(GOICデータ分析シリーズ)
2005年4月3日
前田 高行
理念なき「旦那国家」のUAE経済
(資源立国か?通商立国か?いずれにしても外国人頼み)
はじめに
GCC6カ国(サウジアラビア、クウェート、バーレーン、カタール、UAE、オマーン)の連合機関の一つである「湾岸工業化諮問機構」(Gulf
Organization for Industrial Consulting, 略称GOIC、本部ドーハ)は、GCC各国の経済全般にわたる豊富なデータを有している。GOICはこのデータベースの中から、基礎的なものをダイジェストした”GULF
STATISTICAL PROFILE”を毎年刊行しており、GCC6カ国を相互に比較し、或いは各国の経年変化を見るには極めて有用な資料である。
GOICの資料については、既にこのホームページの「統計で見るGCC湾岸諸国の社会と経済シリーズ」で6回にわたり、各国を横並び比較したレポートとして紹介しているが(注)、今回、新たに「GOICデータ分析シリーズ」として各国毎に90年代から最近に至る経済データを取り上げ、図表を用いてわかりやすく解説することとしたい。
(注)「統計で見るGCC湾岸諸国の社会と経済シリーズ」
第1回(人口)、第2回(石油・天然ガス)、第3回(電力・水)、第4回(労働力)、
第5回(医療・寿命)、第6回(国勢比較)、特集版(国籍・業種別賃金)
http://www2.pf-x.net/~informant/gcc/indexgcc.htm参照。
本シリーズは各国毎のレポートとして順次掲載する予定であるが、各国のレポートを読み比べる利便性を考慮し、下記のように内容に統一性を持たせることとする。本シリーズがGCC6カ国の経済を理解する一助になれば幸いである。
1.
GDPは成長したか? − 1990−2002年のGDPの推移
2.
財政収支は健全でバランスしているか? − 1990−2002年の歳入・歳出の推移
含、歳入分析(石油収入、非石油収入の比較)、歳出分析(経常支出と資本支出の比較)
3.
製造業の規模の拡大、多角化は進んでいるか? − 1995-2002年の製造業の変遷
分野別・投資規模別・従業員数別比較
4.
人口増加はどこまで続くか? − 1950−2050年の人口動態
総人口及び年齢別人口構成の推移
5.
「富める国」は今後も続くのか? − 1995-2050年のGDP実績と予測
GDP総額と一人当たりGDPの実績及び予測
なお本稿UAE以外のGCC各国の分析シリーズは下記をご参照ください。
クウェート:
http://www2.pf-x.net/~informant/kuwait/kuwaiteconomy.htm
カタール:
http://www2.pf-x.net/~informant/qatar/qatareconomy.htm
オマーン:
http://www2.pf-x.net/~informant/oman/omaneconomy.htm
バーレーン:
http://www2.pf-x.net/~informant/bahrain/bahraineconomy.htm
サウジアラビア: http://www2.pf-x.net/~informant/saudi/saudiordinaryeconomy.htm
1.
UAEのGDPは成長したか?
(1)
2000年に700億ドルの大台に乗ったGDP
(図1)

図1は1990年から2002年まで13年間のUAEのGDPの推移を示したものである。1998年に石油価格の暴落によりGDPが落ち込んだことを除くと、1990年代の同国のGDPは前半の300〜400億ドルから後半は500億ドル台に達し順調に増大している。
(表1)1990−2002年のGDP対前年比伸び率
|
91/90 |
92/91 |
93/92 |
94/93 |
95/94 |
96/95 |
97/96 |
98/97 |
99/98 |
00/99 |
01/00 |
02/01 |
平均 |
|
0.8% |
4.4% |
0.3% |
7.7% |
11.9% |
11.1% |
7.7% |
-5.3% |
13.8% |
27.8% |
-1.4% |
2.6% |
6.8% |
表1は1990年から2002年までのGDPの対前年伸び率を示したものである。過去13年間のGDP成長率は平均6.8%であり、長期的な高成長が続いていると言えよう。対前年で成長率がマイナスとなったのは98/97年および01/00年の2回にとどまっており、残る11年間はプラス成長である。とりわけ1999年から2000年にかけてGDPはそれまでの500億ドル台から一気に700億ドル台に急成長し2002年までその状態が継続している。21世紀に入り同国の経済は一段と高い水準に達したと言える。
(2) GDPの6割を占める民間部門
図2は1990−2002年の石油、政府及び民間の3部門のGDPの構成比の変遷を示したものである。
(図2)

1990年の3部門の比率は石油部門47%、政府部門10%、民間部門43%と石油部門が最も大きかった。その後1990年代はほぼ一貫して石油部門の比率が減少し、民間部門のそれは上昇している(その間、政府部門の比率は殆ど変わらなかった)。民間部門は1993年には全GDPの50%を超え、さらに1997年以降は60%台となった。1998年の石油価格暴落時には石油部門の比率は2割まで低下し、一方民間部門はほぼ7割に達している。1999年から2000年にかけて原油価格が急上昇したため2000年には石油部門の比率は34%となり、民間部門は6割を切ったが、その後は再び民間部門の比率が上昇し、2002年の石油、政府及び民間3部門の比率は各々28%、11%、61%となっている。
UAEのGDPは原油価格の上昇により一時的に石油部門が増大した場合でも、その後GDPに占める民間部門の比率が年々高まっていくのは、UAE経済の民間部門が持続的で強い成長力を持っていることを示していると言えよう。これはドバイが近年目覚しい発展を遂げていることと密接に関連していると考えられる。ドバイはGCC、イランなどのアラビア湾岸諸国に限らず、中央アジアの旧ソ連邦及びインド・パキスタンなどの南アジア、さらにはアフリカ東海岸を包含する広域地域経済の物流拠点として他の追随を許さない地歩を占めている。
(3)
成長する製造業部門と商業・観光部門
表2は1990年から2002年までの民間部門GDPの推移であり、また図3は民間主要部門別のGDPの変遷を示したものである。
(表2)1990−2002年の民間部門GDPの推移(上段:金額億USドル、下段:対前年成長率%)
|
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
2002 |
|
143 |
153 |
167 |
183 |
217 |
250 |
271 |
308 |
327 |
353 |
398 |
416 |
437 |
|
- |
7.0 |
9.2 |
9.6 |
18.6 |
15.2 |
8.4 |
13.7 |
6.2 |
8.0 |
12.8 |
4.5 |
5.1 |
1990年に143億ドルであった民間部門GDPは6年後の1996年には2倍弱の271億ドルとなり、さらにその6年後の2002年には96年の3倍強の437億ドルに達している。毎年の伸び率も過去12年間でマイナス成長となったことはなく、最低でも4.5%、時には10%以上の高い成長率を示している。
(図3)

これを部門別にみると、1990年は商業・観光部門が31億ドルと最も大きく、次いで製造業及び建設部門が26億ドルであった。更に住宅部門(19億ドル)、運輸・通信部門(17億ドル)と続いている。その後は製造業部門の成長が目覚しく、2002年の同部門のGDPは1990年の4倍近い100億ドルに達し、民間では最大の部門となっている。商業・観光部門は1990年に31億ドルであったが2002年は82億ドルである。
住宅部門、運輸・通信部門、建設部門の2002年のGDPはそれぞれ56億ドル、55億ドル、49億ドルであり、製造業、商業・観光部門とは金額的にかなりの差がある。5部門の中では建設部門の成長率が最も低く、1990年に比し1.9倍の伸びにとどまっている。(但し、最近のドバイは建設ブームに沸いており、2003-2005年の建設部門のGDPは増大しているものと思われる。)
2.財政収支は健全でバランスしているか?
(1)
不安定な歳入と恒常的な赤字財政
図4は1990年から2002年までの各年の歳入及び歳出を示しており、各年のグラフの左側が歳入、右側が歳出である。
(図4)

上図で特徴的なことは、1990年以降2002年までの13年間、常に歳出が歳入を上回る赤字財政を続けていることであり、また歳入が極めて不安定なことである。先ず歳入面で見ると、1990年に112億ドルであったものが、1992年から下がり始め1994年には102億ドルまで低下した。その後は上昇傾向に転じ1997年には162億ドルとなったが、1998年には一転して116億ドルに激減したかと思えば、1990年から2000年にかけて急増、2000年の歳入は200億ドル台を突破し、2002年も190億ドルである。このようにUAEの歳入はシーソーゲームの如く目まぐるしい変化を示している。
これに対して歳出は常に歳入を上回り、歳入が激減した期間においてすらほぼ一貫して増加傾向にある。このため1990年の33億ドルの歳出超過を始め、毎年巨額の赤字財政となっており特に1998年は原油価格が暴落し歳入が116億ドルに激減したにもかかわらず、歳出は前年より増加して198億ドルとなり、82億ドルと言う巨額の赤字を計上している。2000年以降に石油価格が急騰して歳入が増加しても赤字傾向は変わらず、2001年、2002年はいずれも70億ドル強の赤字となっている。この時期、UAE以外のGCC各国が一時的にせよ黒字財政に転換しているにもかかわらず、UAEがこのような状況を続けていることは同国が「バブル経済」の罠に陥っていると言えそうである。
(2)
石油収入の比率は7割/経常支出は全支出の8割
歳入に占める石油収入と非石油収入の比率を示したものが図5であり、また歳出に占める経常支出と資本支出の比率を示したものが図6である。
(図5)

1990年の歳入に占める石油収入の比率は86%であったが、その後90年代を通じて徐々に下がり1999年には59%まで低下した。2000年以降は石油収入7割、非石油収入3割でほぼ一定している。
(図6)

一方、図6の歳出に占める経常支出と資本支出の比率を見ると、1990〜99年は経常支出が6割〜8割の間で変動しており、これに対し2000年以降は経常支出が常に8割を超えている。2000年以降は財政が硬直化している様子がうかがえる。
3.製造業の多角化、規模拡大は進んでいるか?
(注)本項は冒頭に言及したGOIC資料(GULF
STATISTICAL PROFILE)で入手可能な1995年〜2000年及び2002年の7年分のデータに基づいている。
(1)
企業数は着実に増加、分野は固定
UAE国内の製造業の企業数は1995年に1,838社であったが、2002年には2,627社となり、7年間に789社、43%増加している(下表3参照)。1999年までは増減が一進一退していたが2000年から2002年にかけて急激に増加している。
(表3)製造業の企業数
|
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
2002 |
|
1,838 |
1,982 |
2,017 |
1,846 |
2,011 |
2,107 |
2,627 |
上記の企業数を分野別の比率で示したものが図7である。1995年の場合、1,838社の内訳は金属加工製品業が最も多く430社(23%)であり、続いて化学・ゴム製品業362社(20%)、建材業268社(15%)、繊維業220社(12%)となっている。
2002年の企業数は2,627社に増加しており、金属加工業が697社(27%)と伸張が著しい。2位は化学・ゴム製品業(21%)であり、以下建材業(11%)、繊維業(10%)となっており、建材業、繊維業のシェアは落ちている。1995年から2002年までの8年間では、金属加工業が伸びたが、全体としては大きな変化は見られない。
(図7)

(2)
投資規模、従業員規模とも拡大の兆し無し
表3のうち投資規模及び従業員数が判明しているものについて、その比率を示したものが図8及び図9である。
投資規模については、1995年は投資額5,000万ドル以上の企業が全体の1%であり、以下1,000〜5,000万ドル(4%)、100〜1,000万ドル(21%)、50〜100万ドル(17%)、50万ドル未満(57%)となっている。50万ドル未満の小規模企業が全体の6割を占めており、一方1千万ドル以上の企業は全体の5%にすぎない。2002年にはこれらの割合はそれぞれ1%、3%、21%、12%、63%となっており、小規模企業の比率が高くなっている。上記1の企業数の増加とあわせて考えると、1995年以降UAEの製造業は小規模な企業が多数誕生したものの、規模の拡大は進んでいないと言えよう。
(図8)

また従業員規模で見ると、1995年は従業員20人以下が29%、同20〜50人が35%であり、両者を合わせるとUAEの製造業の6割は従業員50人以下の小企業である。次いで50〜100人が15%、100〜300人が16%、500人以上の大企業は4%であった。この傾向は2002年まで殆ど変化がない。
(図9)

4. 人口増加はどこまで続くか?
(1)
1950年の7万人が2050年には411万人に増加
人口増加はアラブ諸国全体の傾向であるが、中でも高度な医療・福祉体制が整備された湾岸産油国では近年非常な勢いで人口が増加している。UAEではこの傾向が特に顕著に見られる。図10でわかるとおり1950年にわずか7万人であったUAEの人口は1975年に50万人を超え、1980年には100万人、更に1990年には2百万人を突破している。この間、1970年代前半には毎年15%前後の非常に高い人口増加率を示しており、これはオイル・ブームにより出稼ぎ労働者が爆発的に増加したと言う社会的要因が大きい。
1990年以降も毎年4〜5%の増加率であり2000年の人口は282万人に達している。UAEの人口は半世紀の間に実に40倍に膨張したのである。但し今後増加率は低下し2040年の415万人をピークとしてその後は減少に転ずると予測されており、2050年の人口は411万人と想定されている。
(図10)

(2)
青壮年層急増の二つの側面
図10の各年の人口を、14歳以下、15−64歳、65歳以上の3世代の百分比で示したものが図11である。1950年代は14歳以下の若年層の割合がわずかに増加しているが、1960年以降は15−64歳の青壮年層の比率が増加している。即ち1960年に53%であった青壮年層は、1980年には70%に達し2000年まではほぼその比率を持続している。現在この比率は更に増加しており、2010年には75%、すなわち4人のうち3人が青壮年層となる。しかしその後は人口の老齢化が急速に進み、今世紀半ばの2050年には4人に一人強(27%)が65歳以上になると見込まれている。
1960年から2010年にかけての青壮年層の比率の増加については二つの側面がある。その一つは乳幼児の死亡率が減少したことである。元来アラブ人家庭は多産であったが、衛生面が不備なため乳幼児の死亡率が高く20世紀前半は全体としての人口増加が見られなかった。しかるに1970年代のオイル・ブームのおかげで医療体制が整備され乳幼児の死亡率は劇的に低下した。これにより1980年以降は15歳以上の青壮年層が急増したのである。もう一つの側面は社会的人口増としての外国人の急増である。この場合外国人は労働者として流入するためその年齢層は当然のことながら男女を問わず青壮年層である。
(図11)

(3)
外国人労働者の問題
GCC諸国の人口統計に示される人口数は世界でも例を見ない特殊なものである。それは外国人労働者と言う、国籍も市民権も持たない長期滞在者を人口統計に加算していることである。しかも外国人の数が非常に多く、UAEの場合は下表に示すとおり特に顕著である。
(表4) 単位:千人
年度
総人口
UAE自国民 外国人
外国人比率
1996年
2,443
576 1,867
76%
1998年
2,759
617 2,147
78%
2000年
3,108(*)
655
2,453
79%
2002年
3,754
732 3,022
81%
(*)図10の長期人口推移では、2000年の人口を282万人としている。
UAE人口の外国人比率は8割に達しており、サウジアラビアの30%に比べて非常に高く、またクウェート、カタールなどが6割程度であることと比較しても、UAEの外国人比率がいかに高いかがわかる。
5.一人当たりGDPは今後どうなるのか?
(1) GDP総額の成長は確実−成長率1%、3%、5%ケースの試算
近年のUAEのGDPの平均的な構成は石油3割、政府部門1割、民間部門6割である(図2参照)。今後当面の間、石油価格は高水準を維持するものと思われ、また民間部門も地域経済のハブとしてますます重要性を増している状況を勘案すると、UAEのGDPが今後もプラス成長することは確実と思われる。図12は、成長率1%、3%、5%のケースで2000〜2050年のGDPの成長を試算したものである。
(注)以下の試算では、例えば成長率5%/年の場合は5年間で25%(=5%x5年)GDPが増加するとして計算している。
(図12)

2000年のGDPは705億ドルであったが、2050年まで年平均1%で成長した場合、2015年までには800億ドル台、2050年のGDPは1,150億ドル弱と試算される。また成長率が3%の場合、2015年までに1,000億ドル、2030年代後半には2,000億ドルの大台に到達し、2050年のGDPは2000年の4倍の2,850億ドル強になる。成長率が更に高い5%の場合は、2025年に2,150億ドル、2050年は6,600億ドル(2000年の10倍弱)と試算されるのである。
上記は単純な数学的計算に基づくものではあるが、今後も世界のエネルギー需要が増大し、石油がその太宗を占めると言うのが現在の通説であるので、5%成長はともかくとして、UAEのGDPが3%程度の成長率を持続すると見るのは、あながち無理な予測とは言えないであろう。
(2) GDP成長率5%なら2050年の一人当たりGDPは16万ドル
2000年のUAEのGDP総額は705億ドルであり、同年の総人口(外国人労働者を含む)311万人で割った一人当たりのGDPは22,700ドルであった。1995年以降の一人当たりGDPの推移を見ると、95年17,141ドル、96年19,484ドル、97年18,991ドル、98年17,579ドル、99年18,788ドルである。2000年の数値は同じ湾岸諸国のカタール(28,400ドル)とクウェート(16,400ドル)の中間に位置し、サウジアラビア(8,520ドル)の2.7倍である。
UAEの場合、図10が示すとおり2000年〜2050年の人口増加は緩やかであり、特に2040年以降は増加率がマイナスに転じると予測されるため、一人当たりGDPはGDPの成長率次第と言える。仮に2000年以降のGDPの成長率を年率1%、3%及び5%とした場合、2050年までの一人当たりGDPの推移を予測したものが図13である。
(図13)

先に述べたとおり今後UAEは人口が高原状態を呈するため、成長率の差異によるGDP総額(図12)と一人当たりのGDP(図13)はほぼ同じ傾向を示している。GDPの年間成長率が1%の場合、一人当たりGDPは2000年の22,700ドルから徐々に増え、2050年には27,900ドルになる。成長率が3%の場合は、2015年に3万ドル台、2030年に4万ドル台に達する。人口増加が止まると予測される2030年以降は一人当たりGDPが急激に増加し、2050年はほぼ7万ドルになるものと試算される。また成長率が5%であれば、2050年の一人当たりGDPは現在の8倍近い16万ドルに達する。
(2) UAE自国民一人当たりの本当のGDPは?
表4で示したとおりUAE人口の8割は外国人である。上記に述べた一人当たりGDPは総人口をベースにしたUAE自国民と外国人の平均的数値である。しかしながら所得格差が極めて大きい自国民と外国人では、当然のことながら実質的な一人当たりGDPも異なるはずである。
この点を考慮して2000年時点のUAE自国民の一人当たりGDPを試算し、それをもとにGDP成長率による2050年までの一人当たりGDPを予測したものが図14である。2000年および2000〜2050年の試算値は以下の仮定に基づいている。
(試算値の算定条件)
・
2000年の総人口310万人。内訳は自国民65万人、外国人245万人(上表4)
・ 外国人の平均GDPは5,000ドルと仮定。
(注) 外国人にはエジプト人、インド人等の低所得国の労働者が多く、同じ年(2000年)の
母国の一人当たりGDPは、エジプト1,490ドル、インド452ドルにすぎない。このため
平均GDP5,000ドルは高すぎる感もあるが、彼らがUAEで高所得を得ていること、
及び外国人の場合は殆どが労働者本人のみで配偶者や子供を含まないことを考慮して
5,000ドルとした。
・ 2000〜2050年の人口増加は図10の通り。
・ 但し、UAEにおいても他のGCC諸国と同様に外国人を削減する政策(Emiratization)が
進められていることを考慮して、2025年まで外国人比率はほぼ現状のまま推移し、それ以降は
外国人の流入が止まり、さらに2045年以降は減少に転ずるものとした。
(この場合、2050年の外国人は280万人、全人口に占める比率69%となる)
・ GDP総額から上記をもとにした外国人GDP額を差し引いたものをUAE自国民のGDP額とし
一人当たりのGDPを算出。
(図14)

上記の仮定条件で算定すると2000年のUAE自国民の一人当たりGDPは106,000ドルとなる。これは外国人を含む全国民平均22,700ドルの実に4.7倍である。国際水準で比較すると、日本(35,700ドル)、米国(37,700ドル)をはるかに凌駕し、EU25カ国平均(19,800ドル)の5倍以上となる。UAE自国民は現在既に世界でも飛びぬけた富者と言えそうである。
これを今後のGDP予測値(図12)に合わせて図表化したものが図14である。GDP成長率が1%の場合、UAE人口の増加率がGDPの増加率を上回るため、今後50年間の一人当たりGDPは現状維持か若しくは低下することになる。即ち2000年の106,000ドルが2030年には10万ドルを割り、2050年には87,000ドルとなる。成長率が3%の場合は、徐々に増加し2050年には倍増して217,000ドルになると試算される。GDP成長率5%のケースでは、一人当たりGDPは直線的に増大し、2050年には50万ドルと言う現在の世界の常識から言えば天文学的な数値になるのである。
6.むすび − 国際調和に対する理念と政策の必要性
現在のUAE自国民の一人当たりGDPが10万ドルを超えていると言う上記試算値は本稿読者にある程度理解していただけるであろうが、経済成長率が5%を持続した場合、50年後のそれが50万ドルになると言う結果は極めて非現実的であるかもしれない。世界人口が増え続ける現状では世界の貧困地域がますます拡大すると見るのがごく常識的な考え方であろう。この状態を放置すれば先進国と低開発国の貧富の格差がますます広がるため、その対策が緊急課題とされている。そのような中でUAEのような一部産油国が突出した富を独占することが国際社会で許されるのかどうか定かではない。しかしながらそれを論ずるのは本稿の目的ではないので、ここでは試算結果を提示するにとどめ、UAEのマクロ経済の現状分析を通じて得た若干の私見を述べることとする。
一般論として豊かな産油国は「Rentier国家」と呼ばれることが多い。Rentierとは不労所得者或いは金利生活者と訳される。要するに産油国は石油或いは天然ガスと言う現代経済社会を下支えするエネルギー資源を持っているがゆえに労せずして豊かな生活を享受している。そしてその資源で外貨を稼ぎ続けられる限りは将来の豊かさも保証されるであろう。それがRentier国家と言われる所以である。
UAEは石油の恩恵に加えて一つの賢明な選択を行った。それはドバイが、港湾・空港を含む幅広い貿易インフラをいち早く整備し、湾岸地域にとどまらず中央アジア、インド亜大陸、アフリカ東海岸までをカバーする広域経済圏の中核(ハブ)的地位を確立したことである。UAEはアブダビによる石油の富と言う従来の果実に加え、ドバイによる通商の富という新しい果実を手に入れたのである。
しかしUAEの繁栄を支えているのはまぎれもなく外国人の知恵と労働力である。人口の8割を占める外国人は、肉体労働などの下級労働力からマネジメント、医術、教育、技術などの高度な労働力までUAE経済のほぼ全てをカバーしている。彼ら外国人労働力なくしてはUAE経済が成り立たないのは事実である。
問題はUAEが将来どのような国家を目指しているのか国家の理念が見えないことである。国家の理念はUAEの自国民自身が作るべきものであって、外国人に委ねることのできないものである。ところが現在のUAEは全てを外国人に委ねてただただGDPの拡大に狂奔しているとしか見えない。これは家業が安定している商家の旦那とどこか似たような感がある。暖簾に安住した商家の旦那は番頭や手代・丁稚にまかせっきりで家業を省みずマネーゲームにうつつをぬかす。UAEのような小国にとって今後も豊かさを持続するためには、国際社会といかに調和させるかについての理念と政策が必要な時期ではないかと思われる。しかしながら現在のUAEは将来のことも考えずに目先のバブルに浮かれていると言えば言いすぎであろうか。
以上
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行
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