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HP「中東経済を解剖する」

2003年1月5日

前田高行

世界の石油・天然ガスの可採年数と枯渇年数

 

はじめに

このたび石油鉱業連盟(以下石鉱連という)から「世界の石油・天然ガス等の資源に関する2000年末評価」と題する報告書が出版された。全文は250ページ近くに達する冊子であり、最新のデータを科学的に計数処理し、世界の石油及び天然ガスの埋蔵量を地域及び国別に詳細に算出したものである。石鉱連では1986年に第1回の報告書を上梓、その後1991年、1997年にそれぞれ第2回及び第3回の報告書をとりまとめ、今回1年数ヶ月をかけて5年ぶりの第4回報告書を発刊したものである。

内容は多岐にわたっており専門家及び一般読者それぞれにとって非常に興味深い内容であるが、ここでは同報告書の中で明らかにされた石油及び天然ガスの可採年数及び枯渇年数について取り上げてみることとする。

中東地域は言うまでも無く石油と天然ガスの巨大産出地であるとともに、確認された埋蔵量においても他の地域を圧倒している。「地球上で有限である石油或いは天然ガス資源が今後何年採掘できるのか?」、言い換えれば「石油と天然ガスはあと何年で枯渇するのか?」という疑問は古くて新しい問題である。

ほんの40〜50年ほど前、学校では「石油はあと30年で無くなる」と教えられた。しかし今回の報告書では、「現在の生産量を前提にすると、世界の石油を採掘し続けることができる年数(「可採年数」と呼ばれる)は33.3年である」とされている。20世紀後半に世界経済が大きく成長し石油の消費量が大幅に増えたにもかかわらず、石油は無くならないばかりか可採年数が以前と変わらない、と言うことは一般の人々は理解に苦しむであろう。

そのカラクリは大まかに言えば次の二つの理由によるものである。その第一の理由は、世界の未知の地域で石油やガスが新たに発見されることである。それは探鉱技術の発達により既発見の油層より更に深い地層に新たな油層を発見したり、或いは掘削船の技術進歩で数百メートルの深さの大陸棚を掘削できるようになったからである。そして第二の理由は、原油の回収技術が向上し、既存の油田からの回収率が上がったことである。石鉱連の1997年報告書では回収率は29.9%であったが、今回の報告書では36.5%に向上している。水又はガスを油層に圧入するなどのいわゆる二次回収技術が実用化されたことがその大きな要因である。これにより既存油田の可採量は1.2倍(36.5%/29.9%)となり回収率の向上が持つ意味は大きい。

とは言え当面世界のエネルギー供給に不安が無い、と断言するのは早計であろう。まず何よりも原油、天然ガス(石炭を含め化石エネルギーと称される)は有限でありいずれ枯渇することは間違いない。そしてもう一つのそして最大の問題は、エネルギー供給不安は、原油或いは天然ガスの分布が世界の一部の地域、中東と旧ソ連地域に偏在していることである。

本稿では石油と天然ガスについて、それぞれ地域別及び主要生産国別の埋蔵量及び可採年数・枯渇年数についてグラフによって説明することとする。

 

1.  石油の確認埋蔵量
 石油の確認埋蔵量とは探鉱の結果既に発見されている石油の総量からこれまでの生産量を差し引いたもの、即ち今も地下に埋蔵されており将来地上に汲み出すことが可能な石油の量である。石鉱連では、2000年末の世界全体の石油資源(含むNGL、液化ガス)の確認埋蔵量は9,086億バレルと試算しており、これを地域別に示したものが図1である。因みに世界的に権威のある石油・天然ガスの専門誌Oil & Gas Journal(OGJ)が公表している埋蔵量は1兆280億バレルであり、全世界の確認埋蔵量は1兆バレル前後と見て間違いないようである。

 

 

 地域別では中東地域が埋蔵量の半分以上の54%であり、ついで旧ソ連地域が18%となっており、その他の地域はいずれも10%以下である。中東地域と旧ソ連地域の2地域で世界の石油埋蔵量の72%を占めている。

次に主要国の石油埋蔵量を示したものが表1である。ここでは石鉱連データによる各国埋蔵量とその世界全体に占める割合を1位から10位まであげたが、参考までにOGJ公表数値を併記してみた。

 

表1.主要国の石油埋蔵量 (単位:億バレル)

順位

国名

埋蔵量

OGJデータ

サウジアラビア

2,083

22.9

2,592

25.2

ロシア

1,273

14.0

486

4.7

イラク

748

8.2

1,125

10.9

イラン

747

8.2

897

8.7

アラブ首長国連邦

545

6.0

978

9.5

クウェイト

517

5.7

940

9.1

アメリカ

304

3.3

218

2.1

カザフスタン

290

3.2

54

0.5

ベネズエラ

252

2.8

769

7.5

10

リビア

233

2.6

295

2.9

 

世界合計

9,086

100.0

10,279

100.0

 

世界最大の石油埋蔵量を有するのはサウジアラビアである。その埋蔵量は2,083億バレル、世界全体に占める割合は23%と第2位以下を大きく引き離している。因みにOGJデータでも世界1位はサウジアラビアであるが、埋蔵量は石鉱連試算よりも更に500億バレル大きい2,600億バレル弱とされ、比率は25%、実に全世界の4分の1を占めるものと試算している。

ロシアの石油埋蔵量については石鉱連とOGJの評価が大きく異なっており、前者は世界第2位の埋蔵量(1,273億バレル、14%)としているのに対し、OGJはロシアの埋蔵量は500億バレル以下であり、世界に占める割合も5%以下、表1の中ではベネズエラに次ぐ第7位にすぎない。ロシアは後述する天然ガスについてはいずれのデータも世界1位とされており、石鉱連の試算とおりとすれば、同国は世界最大の資源国と言えよう。旧ソ連時代は杜撰な資源管理のため、石油については油層への水の浸入による自噴停止、産出量減少などが発生し、また天然ガスについてはパイプラインの漏洩による火災事故等が多発した。しかしながら近年は欧米メジャーの技術が積極的に導入され、石油・ガス資源の新発見或いは採掘技術向上による可採埋蔵量の見直し、新パイプラインの建設等により同国は生産量及び埋蔵量ともに拡大基調にあることは注目に値する。

イラクは世界第3位の石油埋蔵量を誇っている。石鉱連データでは750億バレル、OGJデータでは1,100億バレル、世界に占める割合は10%前後である。国連制裁下で能力を大幅に下回る石油生産を強いられているイラクであるが、同国の石油資源に対してはロシア、仏なども強い期待感を示している。

 

2.  石油の可採年数、枯渇年数
 石油の可採年数とは、最初に書いたとおり「現在の生産量を前提にして採掘し続けることができる年数」のことである。石鉱連が今回発表した可採年数は上記1の確認埋蔵量を2000年の生産量で割った年数である。
 石鉱連ではこの確認埋蔵量に加え、今後発見されると見込まれる資源量(未発見資源量)及び経験則として知られる既発見油田の開発生産段階での埋蔵量の上方修正(埋蔵量成長)も試算している。これら3種の埋蔵量を合計したものは「残存資源量」と言われるが、この「残存資源量」を生産量で割ったものが「枯渇年数」である。即ち世界全体または或る国の石油資源が何年で枯渇するかを示している。
 「可採年数」も「枯渇年数」もあくまで仮定の試算値であり鵜呑みにすることは危険である。しかしながら石油資源が有限であると言う事実を念頭におけば、現時点における「可採年数」及び「枯渇年数」を一瞥してみることは意味の無いことではない。
 図2は全世界及び埋蔵量上位10カ国(表1参照)の可採年数および枯渇年数をグラフにしたものである。

 

可採年数

2000年末の全世界の確認埋蔵量9,086億バレルを同年の生産量(平均746万B/D)で割った可採年数は33年である。新しい油田発見や技術改良が無いまま2000年の生産レベルを続ければ、今世紀前半で地球上の石油は無くなるという推論である。
 グラフは左端から可採埋蔵量の多い国順である。埋蔵量第1位のサウジアラビアは64年の可採年数を有しており、同3位のイラクの可採年数はサウジアラビアよりも長い78年である。可採年数が最も短いのは米国の11年であり、ベネズエラも23年と世界平均を下回っている。米国は埋蔵量が世界第7位であるが生産量も大きいため、新油田発見等の追加埋蔵量がなければ11年後には生産が停止するというかなり厳しい状況を示している。
 これに比べサウジアラビア、イラク、イラン、クウェイトUAEの中東各国及びロシアは巨大な埋蔵量を有しつつ、いずれの国も50年以上石油生産が可能である。また中央アジアのカザフスタンは現在の生産量が少ない(75万B/D)ため、今後100年以上生産を継続できることになる。言い換えればこれら中東各国及びロシア、カザフスタンは大幅な増産余力を持っていることになる。

枯渇年数
 石鉱連は世界の石油資源が枯渇するのは79.1年後と試算している。先に述べたように「世界の石油枯渇年数」は積み上げた試算値を平均したものである。従って今世紀中に世界の大半の地域で石油が枯渇する「可能性がある」という程度の認識で良いとも言えよう。
 その点を考慮して図2を見ると、石油枯渇年数の世界平均は79.1年であり、埋蔵量上位10カ国のうち米国のみが平均を下回る68.9年である。他の9カ国はいずれも平均を上回っており、サウジアラビア、イラク、イラン、UAE、クウェイト及びカザフスタンの6カ国は石油資源が枯渇するまでの年数は百年を超えている。これら6カ国は来世紀まで石油採掘を続けられることを意味している。特筆すべきはカザフスタン以外の5カ国が中東湾岸の産油国と言うことである。

なおイラク及びカザフスタンは枯渇年数では1,2位であるが、2000年の生産量がいずれも少ない(イラク:262万B/D、カザフスタン:75万B/D)ためであり、実質的にはクウェイトの枯渇年数(149年)が最も長いと考えられる。

 

 

3.  天然ガスの確認埋蔵量
 石鉱連試算によれば2000年末の世界全体の天然ガス確認埋蔵量は4兆8700億立法フィート(以下cf)であり、これを地域別に示したものが図3である。OGJは5兆2800億cfを埋蔵量としており、全世界の天然ガス埋蔵量は5兆cf前後と見られている。



 図1の石油埋蔵量の場合とほぼ同様の傾向を示しているが、天然ガスについては旧ソ連地域が全体の3分の1(33%)を占め中東地域(34%)と同じであることが特徴的である。いずれにしても世界の全埋蔵量の3分の2がこの二つの地域に集中しており、石油・天然ガスを合わせてこの二地域がエネルギー供給の死命を制していると言えよう。なおアジア太平洋地域の天然ガス埋蔵量は中東、旧ソ連に次いで第3位の10%であるが、環境対策としての天然ガス利用が叫ばれる今日、世界経済の成長センターと言われる同地域が今後も発展していくための重要な要素になるものと考えられる。
 次に主要国の天然ガス埋蔵量を示したものが表2である。

表2.主要国の天然ガス埋蔵量(単位:10億cf)

順位

国名

埋蔵量

OGJデータ

ロシア

1,310

26.9

1,700

32.2

イラン

635

13.0

812

15.4

カタル

364

7.5

394

7.5

サウジアラビア

294

6.0

213

4.0

アメリカ

187

3.8

167

3.2

アルジェリア

161

3.3

160

3.0

アラブ首長国連邦

131

2.7

212

4.0

ベネズエラ

126

2.6

147

2.8

インドネシア

123

2.5

72

1.4

10

オーストラリア

116

2.4

45

0.8

 

世界合計

4,870

100.0

5,280

100.0

 

 ロシアは世界最大の天然ガス保有国であり、その埋蔵量は1兆3100億cf、世界全体に占める割合は27%である。OGJデータでは全世界の3分の1近くに達し、石鉱連、OGJいずれのデータでも2位のイランの2倍以上である。ロシアは石油についても世界2位の埋蔵量を有しており資源大国である。
 第2位のイランの埋蔵量は6,350億cf、全世界に占める比率は13%である。以下カタル(3,640億cf、7.5%)、サウジアラビア(2,940億cf、6%)、アメリカ(1,870億cf、3.8%)と続いている。表1の石油埋蔵量と比べると、ロシア、イラン、サウジアラビア、アメリカ、アラブ首長国連邦、ベネズエラの6カ国は石油及び天然ガス双方の資源大国であることがわかる。これに対しカタル、アルジェリア、インドネシア、オーストラリアは天然ガス資源の大国であり、イラク、クウェイト、カザフスタン、リビアは石油資源大国と言えよう。

4.  天然ガスの可採年数、枯渇年数
上記2と同じ手法で天然ガスについて全世界及び埋蔵量上位10カ国(表2参照)の可採年数及び枯渇年数をグラフにしたものが図4である。



可採年数
 2000年末の全世界平均の可採年数は45年と試算されている。これは確認埋蔵量4兆8700億cfを井戸元生産量1,087億cfで割ったものである。石油の可採年数は33年であるが(上記2参照)、天然ガスはこれよりも若干長い。
 埋蔵量上位10カ国の可採年数は長短の差が激しく、最も短いのは米国の8年、次いでアルジェリアが25年であり、この2カ国のみ世界平均の45年を下回っている。これに対し可採年数が最も長いのはカタルの276年、次いでイラン、サウジアラビアが169年、168年とほぼ同じである。石油の場合の最短可採年数11年(米国)、最長107年(カザフスタン)と比べると上下の差が非常に大きいことが特徴的である。天然ガスの需要が増大するものと思われるだけに可採年数の短い米国等では今後国内で新たなガス田を開発するか(同国の枯渇年数は43年であるため開発余地は十分あろう)、LNG受入設備建設又はパイプライン敷設により輸入を促進する対策が必要であろう。

枯渇年数
 世界平均の天然ガス枯渇年数は106年と推定される。石油の79年よりかなり長い。しかし各国別に見ると1位のサウジアラビアが527年、カタル、イランもそれぞれ416年、319年であり、これらの国々の天然ガスは事実上無尽蔵であると言えよう。一方、枯渇年数50年以下の国(アルジェリア:32年、米国:43年)は天然ガス確保の対策が必要である。

今後の見通しについて―予想される激しい資源争奪戦
 言うまでも無く現在世界での基軸エネルギーは石油と天然ガスである。原子力はその安全性を問われ、風力、太陽光等の自然エネルギーは高コストである。従って石油と天然ガスの時代が当分続くことは間違いないであろう。また天然ガスは環境対策及び液化技術(GTL)による利便性の高まりにより、今後ますます需要が増えるものと考えられる。

 石油及び天然ガスの7割前後は旧ソ連地域と中東地域の二地域に偏在している。これに対してエネルギー大消費地域である北米、ヨーロッパ、アジア太平洋地域は需要を満たすだけの十分な資源を保有していない。今後石油と天然ガスを巡って世界的な争奪戦が繰り広げられることが予想される。そしてその焦点となるのは中東地域とロシアであろう。

 その兆しは既に米国とロシアの接近に見られる。そして現在焦点となっているのがイラクであろう。イラクは石油埋蔵量では世界第3位(OGJデータでは世界第2位)の資源大国である。国連経済制裁のため生産量は低く抑えられているが、制裁が解除されれば短期間で供給能力を大幅にアップさせることができ、更に埋蔵量が豊かであるため長期間にわたって安定的に供給を続けることが可能である。既にロシア及び欧米の巨大石油企業はイラクの政権交替後を見据えて同国の石油利権獲得を目指している。またロシア、欧米がイラクの石油資源を手中にした場合、同じ資源大国である隣国のサウジアラビア及びイランは大きな影響を受けるであろう。

 このような中で超大国である米国の戦略が鍵を握っていることは間違いない。米国はイラン制裁の手を緩めず、また9.11テロ事件以来、サウジアラビア政権とも距離を置き始めた。米国は石油・天然ガスの支配権を握ることにより、自国の供給不安を解消するだけでなく、ヨーロッパ及びアジアの同盟国を操る手段とするつもりなのであろうか。更に付言するならば米国の中東和平の目的がイスラエルの生存更には地域大国化であるとするなら、イスラエル安定のためには隣接国からのエネルギー直接供給及び近隣アラブ産油・ガス国の弱体化は一石二鳥とすら言えよう。

 中東アラブの産油・ガス大国であるサウジアラビア、イラン、イラクは、OPECの市場支配力が低下する中で、石油・天然ガスのモノカルチャーから脱却できない状態が今後ますます強まるかもしれない。これらの国々は急増する人口圧力も加わり内外に大きな問題を抱えていると言えよう。

以上

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。(E-mail; maedat@hkg.odn.ne.jp)