「中東経済を解剖する」

サウディ・アラビアよもやま話(第186話〜第190話)

 

サウディ・アラビア総合投資院ジャパンデスク

田中 保春 (在サウディ・アラビア リヤド)

 

  「サウジよもやま話」という題目で、普段の生活や仕事のなかで感じたこと等を皆様に情報発信していこうと考えています。サウジビジネスの最前線に関わっておられる皆様の他にもっと幅広い層の関係者の皆様にもサウディ・アラビアのことをより身近に知って頂きたいというのが目的です。 等身大の視点で、堅苦しくない言葉でお伝えしてゆきます。

 

 

第186話 「サウディ人に囲碁を普及?」

 

先日の新聞を見ていると、国内銀行主催(米国パソコンメーカーが後援)のチェス大会で12歳のサウディ人ハリッド君がインド人の強敵手に勝った様子が掲載されていました。 頭に両手を置いて、必死に読みふけるその姿は印象的でした。

 

シリアなどの喫茶店に行くと、大勢の人達が水煙草のシーシャ(=アルギーレ)片手に「バックギャモン」に熱中する人達が多いのですが、残念ながらサウディ国内では見かけたことはありません。 理由はわかりませんが、規制があって禁止されているものと思われます。 でも、家庭で楽しむ分ならば問題はないでしょう。

 

筆者の偏見かもしれませんが、どうもサウディ人の子供達には集中力を必要とし、様々な手を読むといったゲームを好まないような気がします。 指先の器用さとすばやい判断を必要とするテレビゲームなどは人気があり得意なようですが、じっくり論理的に考えるというゲームは馴染まないよう気がします。 

 

そこで考えてみたいのですが、囲碁はどうでしょうか? 筆者は今年夏休みに帰国した時に近所にある自治センターに行きましたが、そこでは大勢の人達が囲碁に熱中していました。 日本ではプロの囲碁棋士を目指す中学生主人公の漫画「ヒカルの碁」が火付け役となり、小中学生の間で囲碁ブームになっているそうです。 おまけに、子供達に囲碁の楽しさを教えるグループ「囲碁ルーキー」というサイトも高段者の方によって立ち上げられたそうです。

 

今や囲碁の世界は国際的で、日本や中国・韓国をはじめ欧米の人達もプロ棋士として活躍しています。 チェスの世界ではロシアが有名です。 アラブ世界でも何か国際的な舞台でプレーできるゲームがきっとあるはずだと思うのですが、如何でしょうか?

 

第187話 「ラマダーン・カリーム」

 

日本では断食月として知られているイスラーム暦9月のラマダーンに入り、1週間がたちました。 

 

今こうして我々が生きている間にも、世界中には数え切れないほどの多くの人達が飢えや水不足に苦しんでいます。 そうした人達をいくら頭の中で思っても、どこか限界があるように思えますが、実際に体験することの意味は大きいと思います。 無論、断食にはそれ以外にも神の恵みに感謝することや、忍耐力をつけることなどの深い意味があることは言うまでもありません。 

 

またラマダーンはお祭りでもあり、ショッピングモールやレストランの営業時間も深夜まで続きます。 筆者のフラット近くにある大型モールは深夜の2時半まで営業しています。 また、筆者が住んでいる部屋のお隣さんはサウディ人の家族ですが、いつも夜11時頃になるとフラットに戻ってくる音がして賑やかな会話が聞こえてきます。 多分、それまでは実家で過ごしたり、外を出歩いているのかも知れません。

 

さて、日没のお祈りを知らせるアザーンがモスクから流れてくると、イフタール(断食を終える食事)が一斉に始まります。 ラマダーンの最初のうちは家族や親戚など身内だけでイフタールを共にするのが普通の様ですが、何日か経つと、友人を呼んでくれるようになります。

 

相手が単身赴任という事を知っていると、イフタールへのお誘いの機会も多くなるそうですが、先日も職場の親しい同僚からお誘いを受けました。 午後5時過ぎに彼の実家に行き、玄関を入ると、彼と彼の子供達が出迎えてくれました・・・続いて、彼の父親に挨拶、そして母親に挨拶・・・最後に彼の奥さんに挨拶・・・

 

暫くの間おしゃべりをしていると、まもなくテーブルの方に案内されました。 彼の父親がテーブルの真中に座り、筆者も含めると大人5人と子供4人でしたが、大勢の家族と一緒にいると、とても懐かしい思いがして、楽しい気分になります。 「昔の日本はこうだったな〜」

 

テーブルの上には、豪華なご馳走・・・ イフタールの内容は、国や家庭によって様々異なりますが、その日の家族は全員マディーナ出身のため、母親自慢のマディーナ料理でした。

 

彼の父親が「ビスミッラー」(アッラーの御名において)と唱え、続いて彼の母親も続いたので、筆者も「ビスミッラー」と唱えた後に、コップの水を一口含んだその瞬間・・・!! 真っ青になってしまいました!

 

彼の母親から「まだよ」と言われたのです。 不覚にも、筆者自身はアザーンを確認していなかったのです。 彼の父親が唱えた「ビスミッラー」を聞いて、既にアザーンが確認されたものとついうっかり不覚にも思い込んでしまっていたのです。

 

隣に座っていた同僚がすぐに窓を開け、アザーンを確認するまでの30秒ぐらいの間・・・筆者は口に水を含んだまま、頭の中は真っ白になっていました。

 

彼の父親がニコニコしながら・・・「気にしなくて良いよ」と言ってくれ、口に含んだ水を飲み干すことが出来ましたが、本当に冷や汗ものでした・・・(深く反省) 

 

ラマダーンを祝う言葉に「ラマダーン・カリーム(寛容)」という表現があります。 ラマダーン中は、寛容や寛大な気持ちが特に大切とされますが、この時ばかりは心からそれを実感しました。 その後の筆者もそんな事などすっかり忘れてしまい、お腹一杯になるまでイフタールを賞味させて頂きました。 ラマダーン・カリーム!

 

第188話  「イスラミック・ヘッジファンドの誕生」

 

「ムダーラバ」「ムダーバハ」「スクーク」「タカフール」・・・いずれもイスラーム金融ではお馴染みの専門用語ですが、ご存知でしょうか? 10年ほど前には、欧米の投資銀行では殆ど知られていなかったイスラーム金融用語は、今や投資銀行マンの必須科目となりつつあります。

 

「よっしゃ! お前はなかなか商才がある。キャラバン(隊商)の金を出したるから、仰山儲けてくれや!」

昔、アラブの商売はラクダを使って砂漠をキャラバンするのが一般でした。 お金のある人は出資者として、リスクマネーをキャラバン商売人に託するというパートナーシップ契約を結びました。 当然、行く先々で山賊にあったり、思ったように売れなかったり等、高いリスクがありましたが、それでも投資リターンは平均すると20%程度あったそうです。 いわば、現代のベンチャー投資のようなものですが、これがイスラーム金融の原点といえます。

 

さて、ここ数年オイルブームに沸く湾岸産油国の在外個人資産は、総額1兆5000億ドルと推定されています。 9・11後の1年間ほどは急激な資金還流がありましたが、その後も緩やかな資金還流が続いています。 その理由は米国との政治的な理由のほかに、米国市場での投資よりも湾岸域内での投資リターンの方が高いことが指摘されています。

 

こうした中、ビジネスチャンスを見逃すまいと、シティバンク、UBSウォーバーク、BNPパリバ、HSBC、クレディ・スイスなど欧米の投資銀行も中東にイスラーム金融部門を設置し、精力的に活動をしています。 IMFもイスラーム銀行のシステムを認め、統一基準づくりを開始しています。 今年8月には、ドイツの金融機関が、総額1億ユーロのイスラーム金融債を発行しました。 先月9月にはロンドンに英国最初のイスラーム銀行が設立されました。 

 

そして最近、ついに「イスラーム金融型ヘッジ・ファンド」まで登場しました。 無論、イスラーム金融はイスラームの教義(シャリーア)厳守が絶対条件ですから、著名なシャリーア権威者の承認が必要です。 でも、イスラームの教義に反するとされるデリバティブの先物売り(ショート)取引をどう解釈しているのかちょっと気になるところではあります。

 

湾岸域内のイスラーム債券発行残高は、今年8月末時点で昨年の残高の4倍の40億ドル相当に上り、それらの資金は域内のインフラ事業開発などに活用されています。 今月には、サウディアラビア第2携帯電話事業者Etisalat社に16億ドルのイスラーム金融がディールされました。

 

イスラーム銀行&金融機関協会(ロンドン)の推定によると、現在世界中で約300社のイスラーム金融機関が3000億ドルを超える資産を管理運用していますが、1998年以来年率25%の割合で資産が膨らんでいるようです。 欧米系債券格付け機関は控えめに10%〜15%と推定していますが、それでも高成長を続けていることは間違いありません。

 

「イスラーム金融はよく分からないから・・・」と躊躇している間に、イスラーム金融市場は急速に拡大し、欧米のプレーヤー達は積極的な市場参入をしています。

 

第189話 「サウディ企業のコーポレート・ガバナンス」

 

「今、サウディの○○社と組んで、サウディ市場への新規参入を検討しています。 ところが、○○社の信用力が分からないのですが、何か良いアイデアはないでしょうか?」

 

こうした質問がよく寄せられます。 サウディ株式市場に株式公開をしている大企業を除くと、大規模な事業展開や多角経営をしているビジネスグループでも、「ファミリーの個人事業体(Individual Establishment)」の会社形態やファミリーメンバーの株式保有企業が多いため、企業業績や財務内容などを知ることは非常に困難です。

 

ところが、日本側としては「○○社がいくら有名でも、この先長く取引するのに相手の信用力がわからずに契約するのは如何なものか?」となってしまいます。 無論、○○社のトップとの強い個人的な信頼関係があれば問題はないかも知れません。 残念ながら、サウディ国内には信用調査を専門にする会社はありません。 コンサルティング会社に依頼すれば、○○社の事業概要は入手出来ますが、財務内容までは期待できません。 こうした場合の対応としては、次のことが考えられます。

 

(1)タイミングを見て、○○社に財務資料や商業登録などの資料提出を正式に申し入れる。 この場合、相手からは通常「守秘義務契約」を結ぶことが要求されます。 もし、相手側が頑なに拒否する場合は、納得のいくまで徹底的に議論をすることが必要です。 

 

(2)○○社の主要取引銀行がどこか?の情報を入手し、その銀行から情報を得る。 然し通常、銀行はそうした情報はなかなか教えてくれませんので(当然ですが)、過剰期待は禁物です。

 

(3)○○社の取引先を知り、支払い状況などの情報を得る。 また、実際に足を運び、市場関係者から○○社の経営状況など様々な情報を得る努力も必要です。

 

でも、そうした情報武装だけでは、不十分だと思っています。 先日も某有力銀行の法人営業責任者と面談した時に、目から鱗の話しがありました。 

 

「ファミリー系企業の経営者には、企業経営と個人の利害がごちゃまぜになってしまい、経営上きちんと区別されていないケースがある」という指摘でした。 そして彼は、「それでも、我々は徹底的に相手と交渉する。 決して妥協しない。 最後には理解してもらえる。」と語っていました。

 

筆者は、アメリカ型のコーポレート・ガバナンスのあり方が常に正しいとは思っていません。 経営者が規律のメカ二ズムをきちんと理解し整備していること、経営者の権力構造の論理性を知ることが大切だと思っています。 サウディアラビアには日本と異なる社会基盤がありますから、それをよく理解することも非常に大切です。 そして最後は、相手方(経営者)と徹底的に議論をし、相手の人格と規律性を知り、理解することが一番大切だと思っています。

 

第190話  「お国柄が見えるイフタール」


ラマダーンも折り返し時点を過ぎましたが、知人友人からの連日のイフタールのお誘いに嬉しい悲鳴です。 よもやま話(187話)でも紹介しましたが、イフタールというのは断食を終える食事のことです。 今リヤドでは午後5時半前に、モスクからアザーンが流れてきますが、それが聞こえてくると同時にイフタール開始となり、市内は静寂そのものとなります。

 

さて、サウディ人のイフタールは、出身地のお国柄が出るので面白いところです。 

 

(1)リヤドを中心とするネジド出身の人達のイフタールの方法:

・最初に、デーツ(なつめやし)を一口食べ、それからアラビアコーヒーを飲む。

・デーツは数種類出されることが多く、アラビアコーヒーの他にミネラルウォーターも出されます。また、デーツのほかに甘い伝統菓子やジュースなどが出される場合もあり。庭など外でやる場合もあります。 同席するのは男だけで、通常は息子が給仕役を務めます。

 

(2)マディーナ出身家族のイフタール:  

・デーツを一口食べ、それからアラビアコーヒーを飲むところまでは一緒ですが、デーツのほかにサンブーサ(中にチーズや肉や野菜などを入れた焼き餃子みたいなもの)や豆スープや郷土料理もその後一緒に食べます。 本格的な夕食ともいえます。 また、家族全員が集います。

    

(3)ジェッダ出身の方々のイフタール:

・デーツとアラビアコーヒーの他に、「テミーズ」と呼ばれる直径が50センチ以上ある大きな

平べったい焼きたてパンと「フル」とよばれるお芋とオイルと香辛料をまぜたものを一緒に食べ

ます。 これは、暫くすると胃袋のなかで固まってコンクリート状態になりますから、かなり後

で胃に堪えますので、食べすぎ注意です。

 

(4)そのほか: 

 

     高級ホテルのプールサイドなどでは、イフタール特別席が設けられ大勢の家族らが集まり、本格的バイキングスタイルの夕食となります。(食事後は抽選会などが開催されます)

企業幹部や取引先を招待するイフタールでは、ホテル会場を使うケースが増えているようです。

 

     ビルの屋上などにレンタルの絨毯を敷き詰め、近所の仲間同士(無論男だけ)があつまり、デーツと水とヨーグルトを食べる。簡単な豆の煮たものも出されたりします。 アザーンを聞きながら夜空を眺め、イフタールをするのもとても気持ちの良いものです。

 

     モスクの横に立てられたテントなどで、外国人労働者(貧しい国からの出稼ぎの人達)が集まり、モスクから支給されたデーツ、お菓子、水、ジュース類を食べる。 

 

     監視員やビル受付など職場から離れられない人達は、床にビニールシートを敷いてデーツと水とサンブーサなど簡単な食事をする。

 

イフタールのやり方も千差万別です。 ところで今日昼間に、職場の同僚から電話がありました。

 

同僚: 「明日の夜、空いてない? 職場仲間の10名ぐらいが集まるんだけど・・・」

筆者: 「OK。 イフタールだから5時に行けば良いね?」

同僚: 「ちがう、ちがう! 明日は午後11時から午前1時までレストランを予約している」

筆者: 「!?(絶句) それって、スフール(断食を開始する前の最後の食事)?」

同僚: 「まあ、そんなところかな・・・」

 

ラマダーン中の夜の胃袋は、休まる暇がありません。