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HP「中東経済を解剖する」

イラン2002年度マクロ経済の評価と2003年度の見通し

2003年11月30日

大西 圓

 

2002年度マクロ経済の評価>

ハタミ大統領は10月14日に5ヵ年計画3年目の2002年度(2002年3月から2003年3月)の実績報告を議会に提出している。第3次5ヵ年計画法198条では大統領は毎年、議会に対して同法の適正な執行について評価報告書を提出することになっている。

その後、11月9日になって、イラン中銀のエブラヒーム・シェイバーニー総裁は、2002年度のイランの経済成長を既報告の6.5%から、7.4%に修正発表した。特にここ数年の民間部門の躍進や工業部門の貢献がこの年度も継続している。石油収入などが高水準に推移したもの内需の勢いは止まらす、輸入が増加した。この結果、経常収支は2001年ほどではないにしても黒字が確保できた。また、衆目のインフレ率については15.8%に上昇(前年度は11.4%)、近年で最高の水準となった。さらに資本流入(純)の増加で2003年度7ヶ月分の輸入額相当の外貨準備が確保された。石油輸出の増収で外貨準備が増加して50億ドル以上となったのに加えて対外債務の削減も行った。

IMFミッションやイラン中銀の見方に大きい相違はない。

2002年度の経済成長や経常収支が落しどころにとどまった一方で、財政収支は、石油収入増と税収改善はあったものの、対GDP比マイナス1.7%程度に落ち込み、過去2年の余剰とは対照的な結果になった。非石油部門に限ればマイナス幅は対GDP比4.5%である。財政悪化は為替レートの一元化の財政的コストと資本支出の急増を映し出している。財政当局は年度中に速やかに承認済み予算の支出カットに努め、税徴収を強化した。しかし年度を通じて内需や流動性増加に上昇圧力を加え、財政赤字穴埋めの財源に石油余剰基金から引き出しを実施した。

通貨当局は財政支出の流動性へのインパクトを帳消しにするには至らなかった。中銀は過剰流動性を中銀の「参加国債(CPP)」発行で吸収する政策に動いたものの、結果的には金融機関への流動性供給を著しく高めた。この間、通貨供給(M2)は当局の目標(修正値)である25%を上回る30%という高率で拡大した。IMFミッションは、石油収入を原資とした政府支出が内需圧力を刺激しインフレ加速につながる懸念、および油価下降という脆弱性を負ったままのリスクに警鐘を鳴らしている。

一元化に至った為替の動きについてはリアルは対ドルで名目上3%ほど落ち込んだ。しかし、実効的な実質交換レートは年間で7%上昇した。また、為替取引でイラン系銀行の海外支店がオフショア−の外国為替市場での経常取引と資本勘定取引でオペレーションが許可されることになった。

さらに、貿易規制のについても銀行の法的準備要件やLC発行に対する前金担保要件の緩和が輸入を拡大した側面がある。これが2002年度の流動性増を演出したとも言えるが、広い目で見れば金融・通貨当局の信頼性向上に役立つものである。

 

 

表1 国民生産関係

実質経済(2002年度)

 

GDP成長率(1990年度=100)

6.5% 後に 7.4%に修正

非石油部門成長率

7.5%

GDP(経常価格、10億リアル)

893,495.7

一人あたり所得(経常価格、1000リアル)

12,073

粗固定資本形成(経常価格、10億リアル)

239,031.3

民間消費支出(10億リアル)

389,224.3

公共消費支出(10億リアル)

143,670.4

 

表2 経常収支関係

対外経済(2002年度)

単位100万ドル

 経常収支

3,731

 貿易収支

4,400

 輸  出

28,186

 輸  入

23,786

対外債務残高

9,203

為替レート
(銀行間相場、期中平均)

7,958.05リアル

 

表3 物価関係

物価動向(CPI、1997年度=100)

 

インフレ率(年度平均、年度末)

15.8%

3次計画値(期間平均)

15.9%

3次計画値(2002年度)

15.3%

 

表4 消費者物価指数(CPI)の上昇傾向

 

1999年度

2000年度

2001年度

2002年度

CPI年間上昇率(%)

 20.1

12.6 

11.4

15.8

 

表5  通貨関係

通貨関係(2002年度)

 

流動性伸び率(M2)

30.1%

貨幣伸び率(M1)

27.8%

準貨幣伸び率(QM)

31.9%

非公共部門預金伸び率

31.2%

 

表6  財政関係

政府財政状況(2002年度)

 

歳入(10億リアル)

61,973.5

歳出(10億リアル)

148,297.3

借り入れ(純)の対GDP比

マイナス2.3%

出所:いずれもイラン中銀

 

2003年度の経済見通し>

2003年度(2003年3月から2004年3月)の実績見通しも暗くはない。石油収入はこの3月21日以降7ヶ月間、予想以上の高い水準だった。

経済改革の弾みに加えて比較的良好な石油収入と国内需要の持続的な成長に支えられてここ数年の投資と成長の騰勢は当該年度においても継続しよう。実質GDPは2002年には及ばないとしても6.5%で、油価の高止まりと6.2%程度の非石油部門の健全な成長を前提にしている。

政府財政の拡張傾向は維持されるものの、財政赤字傾向の中で政府支出の切り込みが必要である。そのまま放置すれば内需がインフレの押し上げ圧力となる懸念がある。対外経常収支は主に輸入増のためにわずかではあるが過去5年で初の赤字転化が予想されている。赤字は資本勘定の黒字では相殺できず、対外準備は20億ドル程度に減少する見込み。経常収支下方推移の見通しはインフレの加速要因を加味したためで結果は財政・通貨政策の規模とタイミングにあるとIMFは見ている。また、全体基調も、要するに油価動向次第であり、力を入れている地方開発の程度にもよる。

雇用促進は構造改革を通じて比較的前進が見られている。近年の雇用創出は民間部門から出ているものである。財政・通貨政策の拡大傾向は赤字財政定着の懸念から長く続くものではなく、物価や不動産の上昇など中期的にはリスクを伴う。政府が行っている歳出抑制は、今のところ経済成長には最小限の影響しか与えていない。むしろ政府公共部門の歳出抑制が経済改革への民間部門の積極的な対応につながっている側面がある。

財政支出の抑制は、内需圧力の緩和と流動性の適正増加とのバランスでやっていかねばならない。支出カットで対GDP2.2%の赤字は1.4%までに減少している。参加国債の発行で吸収もしているがなお5カ年計画を上回る流動性の伸びがある。

補助金制度についてはエネルギー価格を含む補助金全体の改革が必要で、貧困層の救済と補助制度の合理化が中期の目標である。政府はこれに沿ってガソリン価格引き上げやその他基礎物資補助の見直しはIMFとの合意範囲で実行されていると評価している。また、今行われているエネルギーの間接的な補助金予算(現行でGDPの1割)の予算洗い出しがエネルギー補助の改革と財政の透明化の実証につながるとIMFは期待している。

財政政策は財政規律に支えられてインフレ焦点を合わせつつある。ここ2年の急激な流動性増はマクロ経済の安定性と相容れない。そうしてここのところ物価上昇が頭をもたげ、将来のインフレ予想も出てきている。流動性急増を抑制するにはインフレ期待を押さえ込み、通貨政策で公共部門を中心としたインフレ期待を下方修正していく必要がある。IMFミッションは広義の通貨流通は年間で2割程度の増加に抑えるべきと諮問している。ただ、中銀のCPP発行では過剰流動性を全部吸収できる力はなく、利回り決定能力に欠けている。対策としては政策金利の柔軟さを広げ、マーケット参加者からの信頼醸成が当局に必要とアドバイスしている。

2003年度での流動性成長とインフレ率の設定目標についてIMFは以下の提言をしている。

−中銀はCPP発行と中銀での預託金のオークションにより過剰流動性をネットで10兆リアル削減する。また、これらの吸収手段において利回り率の自主決定権を中銀に与える。

−金融システムでの最低利回りは再検討できるものとし、もし信用の伸びが抑えられないようなら利回りを上げる方向で調整が可能とする。

−当局は、第2次市場でCPP取引が可能となるよう準備作業の加速を推進すべきである。また、ベンチマーク利回りを引き出すような第1次市場のCPPオークションを導入すべきである。評価できる点は、国営銀行に利回りの自主決定範囲を広げる決定が最近なされたことで、今後、信用の政府誘導や利回りの行政決定の範囲をせばめるさらなるステップが期待されている。

次に為替問題だが、為替市場がスムースに運営されてはいるが、実質的な実効レートが揚がっているにも係わらず、イランの相手国の物価動向にムラがあり、かつ、国内非石油簿門の輸出が著しく伸びているため、強いイランリアルによって価格競争力が少々失われることを重要視するには至っていない。だが、これを放置すれば向こう2、3年の競争力喪失が顕示されることになる。中銀が財政・通貨政策の拡大を継続した場合に実効レートの上昇に何らかの歯止めが掛かるか不明だが,IMFミッション自体は、競争力のとりあえずの確保は経済の構造改革の進捗次第と考えている。

5カ年計画下での経済構造改革で最も前進しているのが貿易分野である。最近の成果には関税、その他課徴金、手続き料を統合した単一関税の導入で、商業利益税や非関税障壁の対象数が著しく少なくなった。政府は5カ年計画の残年中に、手続き面の簡素化も含めてさらなる合理化を進める方針である。