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HP「中東経済を解剖する」

 

『メイダーン/ターレバンと宇宙戦艦』

国際政治学者 高橋和夫

 

 謎の星のガミラス帝国の攻撃を受け、人類は滅亡の危機に瀕する。ガミラス帝国が地球を放射能で汚染したからである。人々は地下に逃れ、緩慢な死を待っていた。西暦2188年の事件である。そんな中、148千光年かなたの星イスカンダルから、放射能除去装置コスモクリーナーの情報がもたらされた。人類を救うために宇宙戦艦ヤマトが、コスモクリーナーを求め、はるかな冒険の旅へと飛び立つ。1974年にテレビ放送が開始された松本零士の人気アニメのストーリーである。

 

 この救いの星の名であるイスカンダルとは、アレキサンダーの中東や中央アジアでの訛りである。もともとのギリシア語ではアレキサンドロスと言うのだそうだが。アレキサンダーとは、もちろん古代史の英雄のアレキサンダー大王である。このアニメの作者の松本零士は古代オリエント通なのだろうか、物語の登場人物の一人を「古代進」と名付けている。さてアレクサンドロスが中国まで来ると安禄山となるらしい。1990年代末に読売新聞に連載された小説に『 ( ) べ麒麟』がある。作者の辻原登氏は、この物語の中で安禄山とはアレクサンドロスの漢字表記だとしている。しかし、中央アジアで既にアレクサンドロスがイスカンダルになっており、「ア」の音が「イ」の音に変っているのに、中国でまた「安」と「ア」の音に戻るのは不可解である。中国文学専門の方のご意見をうかがった経験もあるが、確認は取れなかった。

 

ちなみに『翔べ麒麟』は唐の時代に遣唐使として中国を訪れた阿倍仲麻呂などの日本人たちが活躍する物語だ。時代背景は玄宗皇帝と楊貴妃の恋の時代である。この時代の繁栄は安禄山の乱によって終止符を打つことになる。この安禄山は胡人であった。つまり西域の出身者で漢人ではなかった。父はイラン系、母はトルコ系とも伝えられている。唐王朝は、皇帝家にトルコ系の血が流れていたとされるせいか、外国人の登用に大胆であった。現在のアメリカに似ていなくもない。当時の発展途上国の日本の阿部仲麻呂が首都の長安で出世できたのも、そうした雰囲気があったからだろう。安禄山も楊貴妃に気に入られて軍を掌握するようになって、反乱を起した。

 

 さて話をギリシア方面に戻すと、アレキサンダーは、マケドニアの王子である。国の名前は「負けドニア」だが、戦争はめっぽう強かった。父フィリッポス2世は長槍歩兵集団などの戦術を使ってギリシアの諸都市を屈服させた。アレキサンダーは、そのギリシアの連合軍を率いてペルシア帝国を打ち破り現在のパキスタンにまで遠征した。前4世紀の事であった。アレキサンダーは、征服者と同時に建設者でもあった。征服地に自らの名を冠したアレキサンドリアという都市を次々に建設した。また既に存在する都市名をアレキサンドリアに変更した例も多かったようだ。70ものアレキサンドリアが一時期は存在したと言う。現在も残るアレキサンドリアで一番有名なのがエジプトの地中海岸の都市である。その他にも現存するアレキサンドリアがある。ターレバンの本拠地として有名になったカンダハルである。この都市もアレキサンドリアであった事が知られている。カンダハルとは、その現地での訛りだと考えられているようだ。アレキサンダー大王のインド方面への遠征については、既に触れたが、大王はアフガニスタンを経由してインド亜大陸に侵入している。アフガニスタンとパキスタンの国境付近には、イスラム化していないマイノリティーが残っている。この人々は、ギリシア人の血を引いているのではとの推測もあるようだ。また、この地域でかつてガンダーラ美術として知られるようにギリシア人の風貌の仏像が創作された事実からも、ギリシアの影響は確認できる。イスラム過激派のターレバンに支配されたものの、アフガニスタンで仏教が栄えた時代もあったのだ。

 

 さて話を古代から未来へワープ(飛ばすと)させると、宇宙戦艦ヤマトに出てくるイスカンダル星は自爆して滅亡してしまう。カンダハルの方はと言えば、ターレバンの指導者のオマル師による徹底抗戦の呼びかけにもかかわらず12月の初旬には、反ターレバンのパシュトゥーン人の部族に明け渡された。宇宙戦艦ヤマトの方では求めていたイスカンダルの自爆前にコスモクリーナーを主人公たちが手に入れて地球を救うのだがJンダハルではアメリカが追いかけていたオマル師が姿を消してしまった。本稿の執筆時では行方不明である。宇宙戦艦ヤマトは余りに人気があったので、その後に次々と続作が作られた。アフガニスタンの現代史も、まだまだ興味深い続きがありそうである。

高橋和夫 たかはしかずお/国際政治学者)2001年12月9日(日)記